皆さんは、「対話」について、どんなイメージを持っていますか?
今回は、「対話」をテーマとした、私が感銘を受けた2冊の本の話をします。
1冊目は、『ダイアローグ対話する組織』で中原淳氏と長岡健氏の共著です。約10年前に私が勤め先の経営陣として組織と人財育成に日々向き合っている時に、人に紹介されて手にした本です。

当時、職場でのコミュニケーションが、なぜ「伝わらない」のか、悩んでいた時に出会った本で、私自身の情報伝達に比重をおいたコミュニケーションを見直すきっかけとなりました。
ところで、皆さんは、「議論」と「雑談」と「対話」の違いを人に説明できますか?この本では、以下の通り、対話とは何かを位置づけています。
「議論」=緊迫した雰囲気の中での、真剣な話し合い
「雑談」=自由な雰囲気の中での、たわむれのおしゃべり
「対話」=自由な雰囲気の中での、真剣な話し合い
そして、対話は2つの理解(他者理解と自己理解)を生み出すことで、その相乗効果が期待できる。別の言い方をすると、対話の中で自己理解を語り、他者の理解と対比することで、自分自身の考え方や立場を振り返ることができます。つまり、対話は自己内省の機会となるのです。
また、この本が素晴らしいのが、対話がもたらす「意図せざる結果」にも言及しているところです。たとえば、自由な雰囲気と社員の自律という模範的な企業文化で知られていたある企業組織において、社員行動をコントロールすることで、自主的なハードワークを社員に迫り、「燃え尽き症候群」問題が発生するケースなどです。古い文化に過剰適応していると現実とのギャップは埋まらないため、組織変革と組織学習が不可欠なのです。
さらに、今ではグーグル社での強いチームの特徴として有名な「心理的安全の確保」についても、繰り返し言及しています。
2冊目は、『他者と働く』〜「わかりあえなさ」から始める組織論〜で、著者は宇田川元一氏です。この本は、前回のブログで紹介した、佐々木紀彦氏の『編集思考』と同時に令和元年10月に、NewsPicksパブリッシングの創刊として出版されたものです。

実はこの本には衝撃を受けました。理由は、私が日々地域に向き合って、社会実験の実践としての観察を繰り返している中で、「相手の立場で考える」ことを深掘りすることで次の一手(仮説)を生み出すイメージをうまく言語化できないという大きな悩みに対して、一発回答してくれたからです。「溝に橋をかける」というメタファーで、対話の4つのプロセスを説明している点が俊逸なのです。
4つのプロセスとは、以下の通りです。
1.準備「溝に気づく」
→相手と自分のナラティブ(物語を生み出す解釈の枠組み、人が置かれている環境における一般常識)に溝(適応課題:関係性の中で生じる問題)があることに気づく。
2.観察「溝の向こうを眺める」
→相手の言動や状況を見聞きし、溝の位置や相手のナラティブを探る。
3.解釈「溝を渡り橋を設計する」
→溝を飛び越えて、橋がかけられそうな場所や架け方を探る。
4.介入「溝に橋を架ける」
→実際に行動することで、橋(新しい関係性)を築く。検証する。より良い検証ができれば、「二巡目の対話」につながる。
ここで、対話を拒む5つの罠もご紹介します。
①気づくと迎合になっている。
②相手への押しつけになっている。
③相手との馴れ合いになる。
④他の集団から孤立する。
⑤結果が出ずに徒労感に支配される。
最後に、皆さん、ぜひこの本の「おわりに〜父について、あるいは私たちについて〜」は熟読してください。逆境の中でもへこたれずに対話に挑み続けること、次の世代に受け継がれる財産になること、苦しみの中にある人に手を差し伸べること。まさに実践に向けて、背中を押してくれます。