ジェロントロジーとは一般的に「老年学」や「加齢学」と訳されているが、「高齢社会総合研究」や「人生を豊かにする幸せの学問」とも呼ばれている。扱うテーマは、心理・生理・生活行動・高齢者医療・介護・人間関係・労働・社会・文化・経済・政治・住居・家計・死・倫理・法律・テクノロジーなど、「老い」を切り口に幅広い。つまり、学際的(幅広い学問や異なる研究分野の横断と統合)かつ実践的な学問で、欧米では研究・教育・産業間の連携が進んでいる。一方、日本ではそれが遅れているため、ジェロントロジーの知名度はまだまだ低い。しかし、近年になり、超高齢社会のトップランナーである日本でも、ようやく大学や研究機関を中心に活動が活発化しており、今後は一気に知名度が向上していくことが期待されている。
ジェロントロジーの全体像を知る上で、参考になるのが『東大がつくった高齢社会の教科書』〜長寿時代の人生設計と社会創造〜(東京大学高齢社会総合研究機構、東大出版会)の目次。この本は高齢社会検定試験の公式テキストでもあ利、目次の構成が大きく「総論」「個人編」「社会編」に分かれている。
「総論」
第1章:超高齢未来の姿
第2章:超高齢未来の課題
第3章:超高齢未来の可能性(課題解決に向けた方向性)
「個人編」
第4章:長寿時代の理想の生き方・老い方
第5章:高齢者の活躍の仕方(就労。社会参加・生涯学習など)
第6章:高齢者と住まい
第7章:高齢者と移動
第8章:高齢者の暮らしとお金
第9章:高齢者の暮らしを支える資源
第10章:老化の理解とヘルスプロモーション
第11章:認知・行動障害への対応
第12章:最期の日々を自分らしく
「社会編」
第13章:超高齢社会と社会保障
第14章:医療制度の現状と改革視点
第15章:介護・高齢者福祉の現状と改革視点
第16章:年金政策の現状と改革視点
第17章:住宅政策・まちづくり
第18章:交通・移動システム
第19章:ジェロンテクノロジー
第20章:高齢者と法
ここで、『ジェロントロジー宣言』〜知の再武装で100歳人生を生き抜く〜(寺島実郎著、NHK出版新書)の中から著者の言葉を3つ紹介したい。
「超高齢社会に立ち向かうには、構想力と心構えが必要であり、これまでとは違う新しい視界が求められている」
「ただ長寿社会を実現すればよいというものではない。生きるということの意味を見つめ、人間の本質を探求し、超高齢社会に向けての社会システムの再設計に挑戦しなければならない」
「ジェロントロジーは老年学ではなく、若者に希望を与えるものでなくてはならない」
福祉社会の北欧の国々も、経済成長目覚ましいアジアの国々も、世界中が、超高齢社会のトップランナーである日本が、今後どのような超高齢社会を築いていくのかを興味深く見守っている。これは国の行政施策を含む政治レベルだけの話ではありません。私たち日本国民一人ひとりがどういう意識を持って人生設計を変えていくのかが問われている。私たち自身と家族の永い人生を、これからどうやって生き、どう過ごせば幸せになれるのか。そのためには何が必要で、私たちができることは何かを考え、行動をはじめていく必要がある。次世代に何を残していくべきかの視点から。